漫画「ウマ年の初荷」(S29.1.1岩手日日)

昭和29年元旦の岩手日日新聞に掲載されたこの漫画は、トラクターや軽トラックが普及する前の岩手において、馬がどれほど身近で大切な存在だったかを今に伝えています。

物語は午年を迎えた一頭の馬が、今年は自分の年だと意気込むところから始まります。最初は正月らしくのんびり遊ぼうと考えていた馬くんですが、近所の犬や猫、そして仲間の馬たちが皆忙しそうに働いているのを見て、次第に焦りを感じ始めます。自分だけが取り残される不安から、早く初荷を引かなければと駆け出すものの、主人から怠け者だと叱られる夢を見て飛び起きるという、どこか人間味のある展開が描かれています。

ここで描かれている初荷とは、新年最初の運搬を祝う大切な行事です。当時は馬車に華やかな旗や飾りを付け、鈴の音を響かせながら町を練り歩くのが正月の風物詩でした。岩手は古くから名馬の産地として知られており、馬は単なる家畜ではなく、家の中に馬屋がある「南部曲り家」に象徴されるように、家族同然のパートナーとして扱われていました。漫画の中で馬くんが、自分の代わりに牛が仕事をするのを悔しがる場面などは、当時の人々が馬に寄せていた信頼や、馬自身の誇りを代弁しているかのようです。

戦後から10年が経とうとしていた昭和29年は、日本の暮らしが急速に近代化していく前夜にあたります。この漫画には、機械化される前の静かな活気と、動物と人間が同じリズムで生きていた時代の温もりが凝縮されています。新年の澄んだ空気の中、着飾った馬たちが雪道を力強く踏みしめていく音が聞こえてくるような、岩手の原風景を思い出させてくれる貴重な資料と言えるでしょう。


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