盛岡の女性店員殺害事件(S44.4.16)
昭和44年4月16日午前6時すぎ、盛岡市本町通二丁目の住宅街にある空き瓶置き場で、盛岡駅前「丸中洋装店」に勤務する女性店員(21歳)が首を絞められて死亡しているのを近隣住民が発見し、盛岡署に通報した。
遺体はスラックスが膝までずり落ち、身体の一部に変質的ないたずらとみられる痕跡があり、また道路から空き地へ引きずられた跡も確認された。被害者は二戸郡安代町兄畑の出身で、本町通一丁目の洋装店で働きながら、同二丁目の民家に間借りしていた。
現場は仁王小学校正門から約200メートル、盛岡中心街に位置する住宅密集地で、日中は人通りの多い場所だったが、事件当夜に物音や目撃証言はなかった。被害者は事件当夜、本町通二丁目「細川屋食堂」で食事をしたあと、すぐそばのアパート「四ツ家荘」に住む友人宅を訪れ、午後10時ごろまで滞在していた。その帰路、遺体発見現場に至る短い区間で襲われたとみられる。
警察は当初、顔見知り・変質者・物盗りによる行きずり犯の可能性すら絞れず、交友関係の洗い出しや変質者リストの照会、足跡の分析などで捜査を進めた。唯一の物的証拠は、防寒用合成皮ブーツによる足跡で、「四ツ家荘」の付近にも同じ足跡が残されていた。
事件発生から8日後、遺体から男性の体液が検出されたことで婦女暴行の可能性が高まり、捜査は転機を迎える。そして事件発生から20日後の5月6日、警察は盛岡市本町通二丁目15番3号アパート「睦美荘」に住む調理師の男(24歳)を、長田町で発生した別の暴行未遂事件で逮捕。調べによって、被害女性の遺体発見現場やアパート付近の足跡がこの男のものと一致し、以前にも昭和40年10月、強制わいせつ罪で逮捕・服役した前歴があったことが明らかとなった。
男は逮捕後の取調べで当初は否認していたが、5月8日午後になって自供。4月1日午後10時すぎ、盛岡駅前の飲食店「責任」で同僚と飲酒したあと、タクシーで本町通二丁目旧三戸町交差点付近まで戻り、偶然出会った被害女性に「一緒に遊びに行こう」と声をかけたが、拒否されたため首を絞めて失神させ、空き瓶置き場に引きずり込んで暴行。その後、仁王小学校方向に逃走し、県水産会館前からタクシーに乗って月が丘二丁目へ向かったあと、青山一丁目で下車。被害女性のハンドバッグから現金1,500円入りの財布を盗んだとも自供した。
警察はこの男を婦女暴行致死、窃盗、強制わいせつ致傷の容疑で盛岡地検に送致。昭和44年6月16日の盛岡地裁初公判で、被告はすべての起訴事実を認めた。7月16日の第三回公判では、裁判長が「凶暴かつ反社会的で、殺人に等しい行為」として無期懲役の判決を言い渡した。
弁護側は「殺意はなかった」として即日、仙台高裁に控訴した。