久慈のアワビ入札は低調(S32.11.12デーリー東北)
1957年11月12日
2025年12月10日
久慈沿岸に冬の訪れを告げるアワビ解禁。これに合わせて九戸郡漁連が開いた久慈地区のアワビ入札会には、小袖・野田・玉川をはじめ10の漁協が参加し、会場は初荷らしい熱気に包まれた。

しかし今年の相場は、関係者の予想とは裏腹に伸び悩んだ。
生鮑の入札価格は――
最高 855円/貫、最低 732円/貫、平均 755円。
前年の平均900円から見ると、かなりの値下がりである。
値下がりの背景に「干鮑(かんぽう)加工」と“歩留まり”
実はこの時代、アワビは生で売るだけでなく、輸出向けの高級食材「干鮑」に加工する需要が高まっていた。干鮑づくりは生鮑を乾燥させるため、仕上がりは大きく縮み、形や厚みが品質を左右する。
そのため加工業者は、
• 身が厚く、乾燥後のサイズが保てるもの
• 傷が少なく、形が崩れにくいもの
といった“歩留まりのよい”鮑──つまり、乾燥後も無駄なく価値が残る個体だけを選んで買いたがった。
その結果、
「加工に向くもの以外には強気で入札しない」
という姿勢が入札会全体に影響し、相場が上がりきらないまま終了した、というわけである。
歩留まりを意識した買い手の慎重さが、久慈の漁師たちの期待を裏切る結果になったとも言える。
冬の海と漁師の暮らし
久慈のアワビ漁は当時、沿岸の重要な現金収入源だった。解禁日は毎年、浜も市場も活気づいたが、今年のスタートはやや渋め。
それでも海はこれから本格的なシーズンに入る。漁協関係者は「出来の良いものが増えれば相場は戻る」と期待していたという。
干鮑向け需要が高まる中で、海の幸と加工の事情がもつれ合った昭和のアワビ相場。その背景には、地域の暮らしや輸出産業の動きが確かにあった。