岩手県商品陳列所で菊花品評会(S7.11.3岩手日報)

昭和7年11月3日付の『岩手日報』には、盛岡の岩手県商品陳列所で行われた菊花品評会の様子が写真入りで紹介されている。
場所は、現在のもりおか歴史文化館の位置、すなわち戦前は岩手県立図書館が置かれ、その前身的機能として商品陳列所が使われていた場所である。

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この日、商品陳列所の館内には、見事に咲き揃えられた菊花がずらりと並べられた。大輪の菊を中心に、丹精込めて作られた作品が展示され、会場は秋の気配とともに、静かな華やぎを見せていたという。写真からも、整然と並べられた菊と、品評会という場にふさわしい緊張感が伝わってくる。

注目すべきなのは、この菊花品評会が開催された場所が「商品陳列所」であったという点である。戦前の岩手県商品陳列所は、単なる物産展示や即売の場ではなく、県内の産業・工芸・農産物の水準を示し、奨励するための公的な展示・評価空間だった。工業製品や工芸品だけでなく、園芸や農業の成果もまた、ここで「見せる価値のあるもの」として扱われていたのである。

菊花品評会は、単なる愛好家の集まりではなく、農業技術や栽培技術の成果を社会に示す場でもあった。商品陳列所という近代的施設で開催されたことは、菊作りもまた「産業」「技術」の一端として位置づけられていたことを物語っている。

現在、その場所は「もりおか歴史文化館」として、盛岡の歴史や文化を伝える拠点となっている。かつて同じ場所で、県の産業や農の成果が展示され、人々が集い、評価し合っていたことを思うと、展示を通じて地域の力を可視化するという役割は、形を変えながらも連続しているように感じられる。

一枚の新聞写真は、戦前の盛岡において、商品陳列所が都市文化と産業振興の交差点であったことを、静かに伝えている。


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