本日不在事件(昭和12年5月16日)

「ガールズちゃんねる」に、心霊スポット関係のスレッドがある。

そこに、盛岡出身と思しき方の書き込みがあった。

北夕顔瀬町の殺人事件があった場所が、小学生の肝試しスポットとなっているのだという。

まあ元気があって何よりですこと・・・ という気もしないではないが、殺人事件があると、このように心霊スポットとして後年認知されてしまうようだ。

 

さて、この事件はどのような事件だったのか。

このあたりは、かつては「下厨川字宿田」という地名だったようだ。

ここに、農林省た種馬育成所(現在の独立行政法人家畜改良センター岩手牧場)の種馬係長まで勤めた、種畜関係のオーソリティで勲七等まで受けた馬事功労者である71歳の主人、66歳の妻、22歳の養女が広壮な屋敷で暮らしていた。

盛岡市内に不動産や山林を持ち、暮らし向きは良かったという。

 

昭和12年5月16日の朝、そんな広壮な屋敷に、妻の妹が行ってみると、下手な字で「本日不在」と玄関に貼紙がしてある。
女中や下男を雇っているわけでもなく、この家にこんな下手な字を書く人なんていない。

ちなみに、下の写真は後年「官製グロ書籍」として話題になる「岩手の重要犯罪」の巻頭を飾っているものである。

 

別に不在なら不在で、一言連絡ぐらいあるはずである。

何かおかしいのよね・・・と思って入ってみると、家族の全員が殺されているではないか!
色を失って警察に通報した。

警察が確かめてみると、現金や預金通帳が盗まれている。
一目で強盗とわかる状況だった。

しかし、殺された主人は種馬購入に関してトラブルもあったようで、その線も捨てきれなかった。

さあ下手人は誰だ?
新聞に載っただけでも、以下の人たちが疑われている。

  • 39歳の甥。商売がうまくいっていなかった。
  • 妻の弟(41歳)。素行が収まらない。
  • 妻の妹の私生児(27歳)
  • 妻の甥(26歳)
  • 近所の馬車引き(26歳)
  • 盛岡中学校近くで発生した強盗事件の犯人
  • 近所の債務者(40歳)

なにしろ戦前なので「推定無罪の法則」なんてありはしない。
疑わしければすぐに実名報道だ。

新聞がこんなことをしているので、妻の妹(疑われた私生児の母)は貨物列車に飛び込んで自殺してしまった。

戦前の犯罪報道はどこもかしこもこんなもので、正に「羽織ゴロ」の世界であった。

 

結局、この犯人逮捕が報じられるのは、月の変わった6月9日のことである。

犯人は、現場から東北本線を隔てた天昌寺町に住む38歳の男だった。

賭博好きの怠け者で、「胃病で盛岡病院に入院している」というアリバイを主張していたが、「本日不在」の書き損じや血の付いた斧が発見されるに至り、容疑を隠し切れなくなったのだ。

勉強嫌いで小学校は2年までしか行かなかったというその男について「参差踊りの名人」と書いている。
ああ、盛岡の夏の風物詩「さんさ踊り」を漢字で書くとそう書くのね。

 

結局、その男は死刑になった。

 


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