花巻モーテル殺人事件(S56.8.27)
昭和56年8月27日、岩手県花巻市矢沢のモーテルの六号室で血痕が発見され、事件が明らかになった。このモーテルは花巻空港や花巻温泉郷に近い静かな地域にあり、午前8時30分頃、経営者が「畳の隙間に血のような跡がある」と花巻警察署に通報した。現場では、畳や壁に乾燥した血液が付着しており、殺人事件の可能性が浮上した。
捜査の結果、8月1日から発見日までに六号室を利用した客が調べられ、現場から見つかった食堂の割り箸袋や経営者の証言を手がかりに、8月10日に宿泊した男女2名が特定された。男性は北上市飯豊町に住む会社員、女性は北上市内のラブサロンに勤務するホステスであり、ラブサロンは親密な接客を提供する風俗店の一種とされている。女性は8月11日以降行方不明になっていることが判明した。
翌8月28日午前7時、男性が北上市飯豊町の自宅から任意同行され、取り調べが開始された。男性は当初黙秘していたが、午後になり自供。8月11日午前4時30分頃、モーテルで鉄筋を用いて女性を殺害し、遺体を自宅近くの和賀郡和賀町にある農道に埋めたと述べた。
男性は女性と情交関係にあり、妊娠したと告げられた上で「中絶費用」を要求され、これまでに数十万円を渡していた。しかし、8月10日には「300万円を用意しないと関係を親にばらす」と脅迫され、金銭的に追い詰められていた。男性は縁談を控えており、このままでは将来が壊れるという恐怖から、殺害を計画したと供述した。
裁判では、男性が計画的に犯行を行い、遺体を隠したことが重く見られた。一方で、女性からの度重なる金銭要求や脅迫で精神的に追い詰められていた状況が考慮され、昭和57年2月9日、盛岡地方裁判所で懲役8年の判決が下された。その後、男性は服役し、7年で仮釈放され、出所後は社会復帰していると伝えられている。
事件は、静かな環境の花巻市矢沢や和賀郡和賀町で発生したことから、地域社会に大きな衝撃を与えた。