昨年の回顧(S3.1.1岩手日報)
昭和3年の元旦に発行された岩手日報の紙面を飾る「昨年の回顧」は、前年の昭和2年がいかに激動の1年であったかを物語っています。この資料は岩手県内のみならず、日本全国、そして世界を揺るがした出来事を一枚の絵巻物のように凝縮して伝えており、大正から昭和へと時代が移り変わった直後の特有の熱量と不安が混在しています。

紙面の中でとりわけ目を引くのは、日本経済を根底から揺るがした昭和金融恐慌の記憶です。4月22日の日付と共に描かれた支払猶予令、いわゆるモラトリアムの布告は、銀行の取り付け騒ぎに直面した当時の人々の動揺を今に伝えています。この経済的混乱と時を同じくして、4月19日には田中義一内閣が成立し、6月1日には民政党が結成されるなど、政治の世界もまた大きな転換期を迎えていました。
皇室に関する記述も多く、1月には大正天皇の御大葬が執り行われ、4月29日には昭和天皇となって初めての天長節を迎えました。さらに9月10日の久宮祐子内親王の御降誕など、新しい時代の幕開けを感じさせる慶弔の記録が並んでいます。しかしその一方で、5月の山東出兵に代表されるように、大陸への軍事的な関与が強まっていく不穏な空気も隠しようがなく描写されています。
文化面において当時の人々に最も大きな衝撃を与えたのは、7月24日の芥川龍之介の自死でしょう。文壇のスターを失った悲しみは、時代の閉塞感を表す象徴的な事件として記録されています。その一方で、9月14日に世界一周飛行機が霞ヶ浦に到着したニュースや、10月の昭和初となる大観艦式の開催、秩父宮殿下による北アルプス登頂といった、近代化への憧れや高揚感を感じさせる話題も散りばめられています。
この回顧図は、経済的な危機と新しい時代の希望、そして忍び寄る軍靴の足音が奇妙に同居していた昭和2年という時間を、当時の読者の視線で追体験させてくれます。100年近い時を経た今、この色褪せた新聞の切り抜きを眺めると、先行き不透明な時代を懸命に生きた人々の息遣いが聞こえてくるようです。
