内丸通りで絵を描く人(S5.3.1岩手日報)
1930年3月1日
2025年8月2日
昭和5年(1930年)3月1日の岩手日報には、「季節を描く人」と題された印象的な写真記事が掲載された。
写っているのは、盛岡市中心部の内丸通りにて、冬の街並みを前にイーゼルを立てて絵筆を握る画家の姿。手前にはスケッチ道具が置かれ、雪を踏みしめるように立つその姿は、まるで冬の空気をキャンバスに封じ込めようとしているかのようである。
現在の内丸界隈といえば、岩手県庁、市役所、県警本部といった官公庁が立ち並び、アスファルトとコンクリートの街並みという印象が強い。しかし、当時の内丸通りはまだ舗装もされておらず、土と雪が交じる未舗装の道だったことが、この一枚からうかがえる。背景には木造の建物や看板が見え、現在とは全く異なる、どこか柔らかく、季節の移ろいが目に見えた風景が広がっていた。
この写真は、そんな昭和初期の盛岡の一断面を、そして自然と人がもっと身近だった頃の空気を今に伝えている。
内丸が「絵になる風景」だった時代。人々はその四季を肌で感じ、絵筆を取る心の余裕があったのかもしれない。