荒沢村の座敷牢放火殺人事件(S9.9.1)
昭和9年9月1日、岩手県二戸郡荒沢村(現在の八幡平市荒屋新町)で、精神疾患により自宅裏手の監置場に隔離されていた男が火災によって焼死する事件が発生した。この監置場は、男が暴行を働くようになったため、同年4月末に木造で建設されたものだった。
焼死した男は、精神疾患を発症する以前は牛馬商を営んでおり、その取引の中で地元の別の男に仲介を依頼していた。しかし、仲介に対する報酬が支払われなかったことで関係が悪化。昭和8年秋ごろから二人の間には深い溝ができ、度々争いが起きていた。精神疾患を発症した後、監置される前には取引相手の男に暴行を加え、自宅に押しかけることもあったため、取引相手は警察に相談し、監置に協力することになった。
監置場に入れられた後も、焼死した男は「解放されたらあいつを殺す」「新町を焼き払う」と繰り返し叫び、取引相手への敵意を隠さなかった。この言動を聞いた取引相手は強い恐怖心を抱き、さらに監置場に石や木片を投げ込むなど嫌がらせを行った。
昭和9年8月中旬、監置された男の妻が「病気が治ったので近いうちに監置場から出される」と話しているのを耳にした取引相手の男は、解放後の報復を恐れて監置場を焼き払うことを決意。9月1日午前10時ごろ、自宅から藁と杉葉を持ち出し、監置場の糞便汲取口からこれを押し込み、マッチで火をつけた。火は瞬く間に広がり、監置場は全焼。中にいた男は逃げられず焼死した。火は隣接する厩舎にも延焼し、これを半焼させた。
警察の調査により、監置場周辺には火の気がなく放火と断定され、被害者と怨恨関係にあった取引相手の男が容疑者として浮上。取り調べの結果、男は恐怖心から犯行に及んだことを自供した。
この男は殺人放火罪で起訴され、昭和10年1月31日に盛岡地方裁判所で懲役15年の判決を受けた。控訴や上告も行われたが、いずれも棄却され、判決が確定した。