花巻の少年店員殺し(S13.5.12)
1938年5月12日
2025年8月11日
昭和13年5月12日夜、岩手県稗貫郡花巻町(現・花巻市)字上町の食料品店「明治屋」に奇妙な電話がかかってきた。電話の主は「花巻駅前の公衆電話からかけている」と名乗り、生菓子を一円分届けてほしいと依頼。さらに「工藤医院に届けてほしい」と指定し、十円札で支払うから九円の釣銭を持ってくるよう求めた。明治屋の店員である17歳の少年が自転車で配達に向かったが、釣銭を持たないまま工藤医院に向かい、その後戻らなかった。
翌13日早朝、花巻小学校付近の早坂新道で少年の遺体が発見された。
第一発見者は花巻小学校でその少年を教えていた教諭だった。
現場は東北本線花巻駅から約八丁(約870メートル)の距離にあり、周囲は杉林に囲まれた寂しい場所だった。遺体は下水溝に仰向けで倒れ、頭部や顔面が鋭利な刃物でめった切りにされていた。近くには血痕が飛び散り、少年の自転車と配達用の籠が残されていた。
事件は当初、捜査が難航し、1ヶ月後に捜査本部が解散されたが、翌昭和14年に捜査が再開された。その結果、犯人として花巻町内に住んでいた20歳の青年が浮上。この青年は遊興費に困り、釣銭詐欺を計画。電話を使って明治屋に菓子を注文し、釣銭を得ようと少年を誘い出した。釣銭がないと知ると口論となり、激昂して護身用の出刃包丁で少年を襲撃し、殺害した。
犯人は事件後も花巻町内で生活していたが、窃盗の罪で服役中に犯行が疑われ、取調べの末に自供した。裁判で昭和15年4月15日に無期懲役の判決が下された。
ちなみに、この明治屋、戦時中の昭和18年に「花巻企業整備委員会」で残存業者と転廃業者に振り分けられ、5月17日に他の廃業対象店舗とともに閉店になってしまった。