一関映画案内(S29.1.11岩手日日)

昭和29年1月11日の岩手日日新聞に掲載された、一関市内の映画案内。そこには「新星」「オリオン座」「文映」「一関映劇」という四つの映画館が競うように豪華なラインナップを並べており、当時の娯楽の王様だった映画の熱気が紙面から溢れ出しています。

まず、新星劇場で上映されていたのは、戦後の日本中を熱狂させた松竹映画「君の名は」の第二部です。出演は、真知子役の岸惠子と後宮春樹役の佐田啓二のほか、川喜多雄二らも名を連ねています。全国の女性を魅了し、銭湯の女湯が空になったという逸話でも知られるこの作品ですが、広告には「最後のチャンス」と力強いコピーが躍っており、その爆発的な人気が伺えます。当時の入場料は大人160円、学生50円となっており、現在との物価の違いも興味深い点です。

オリオン座では、感激の2大作として西部劇「銅の谷」と邦画「旅路」の二本立てを公開していました。原題を「Copper Canyon」とする「銅の谷」は、レイ・ミランドやヘディ・ラマール、マクドナルド・ケリーといったハリウッドスターが出演するパラマウントの色彩豊かな一作です。併映の「旅路」は、若原雅夫、佐田啓二、岸惠子、月丘夢路らが出演した松竹作品です。実はこの「旅路」は前年7月の公開で、9月公開の「君の名は」よりも先に封切られた作品でした。年を越した1月の紙面で、同じ岸・佐田コンビの主演作が別々の映画館で同時に掛かっているところに、当時の二人の圧倒的な売れっ子ぶりと、地元ファンの熱狂が分かります。

文映の出し物は、源氏鶏太の原作を映画化した「純情社員」と、歌謡映画の「紅椿」です。「純情社員」には小林桂樹をはじめ、杉葉子、伊豆肇、三浦光子、井上大助、相馬千恵子といった顔ぶれが出演し、当時のサラリーマンの悲喜こもごもを描いています。一方の「紅椿」は、江利チエミ、近江俊郎、船越英二、岡田茉莉子、木村三津子、沢村美智子、近江俊郎らが出演しており、昭和20年代を彩ったスターたちの歌声が聞こえてきそうな、華やかな興行だったことが分かります。

そして、一関映劇で絶賛上映中だったのは、美空ひばり主演の「お嬢さん社長」と、社会派の「赤線基地」という対照的な二本です。「お嬢さん社長」は、若干16歳の美空ひばりが社長役を演じて話題を呼び、出演者には佐野周二や桂木洋子、堺駿二らが並んでいます。併映の「赤線基地」は、三國連太郎や岡田茉莉子、近江俊郎、津村謙などが出演した作品で、こうした娯楽作と社会派作品の二本立てが、当時の映画館の懐の深さを物語っています。

わずか一枚の新聞広告ですが、これだけ多くの映画館が街の活気を支え、人々が映画に夢を託していた時代の空気が鮮明に伝わってきます。登場する俳優たちの名前を追うだけでも、昭和29年という年の映画界がいかに充実していたかを改めて感じさせられます。


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