松尾鉱山の文盲鉱夫と盛岡の悪い女

盛岡区裁判所で行われた裁判より。

山形県の山中で生まれ、あまりに僻地であることから3か月しか学校へ行かずに字が読めず、九州の炭鉱などで鉱夫として働いていた。

生母と生き別れになっていたが、その生母が盛岡にいることが分かり盛岡へ行き、松尾鉱山で働くようになった。

ところが鉱夫仲間の時計を盗んで盛岡市内のカフェーで酒を飲んだ帰り、中の橋の所でどこかの女に声を掛けられた。

「兄さんずいぶん元気だね」
「僕は松尾鉱山にいるんだ。山の者はみんなこうだよ」

そして意気投合。
岩手公園で「私ね、お妾の借金60円あって身動きできないの。それを払ってくれたら一緒になってもいいよ」

この当時、60円というとサラリーマンの初任給にも匹敵する額。
今で言えば20万円前後になるだろうか。

松尾鉱山に戻った男は、鉱山仲間の貯金84円50銭を勝手に引き出して、約束の岩手公園で女に渡し、1回関係した。
しかし、その女の住所氏名は聞かなかったのだ。

「これからについて明日またここで相談しようよ」
「わかった」

しかし、翌日女は来なかった。
騙されたのである。

判決では懲役8か月、執行猶予4年。

裁判長からは「今後一生懸命働いて金を返して、まじめに世の中を渡れよ」と訓戒された。

 


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