松尾鉱山の文盲鉱夫と盛岡の悪い女
1937年5月27日
2021年11月6日
盛岡区裁判所で行われた裁判より。
山形県の山中で生まれ、あまりに僻地であることから3か月しか学校へ行かずに字が読めず、九州の炭鉱などで鉱夫として働いていた。
生母と生き別れになっていたが、その生母が盛岡にいることが分かり盛岡へ行き、松尾鉱山で働くようになった。
ところが鉱夫仲間の時計を盗んで盛岡市内のカフェーで酒を飲んだ帰り、中の橋の所でどこかの女に声を掛けられた。
「兄さんずいぶん元気だね」
「僕は松尾鉱山にいるんだ。山の者はみんなこうだよ」
そして意気投合。
岩手公園で「私ね、お妾の借金60円あって身動きできないの。それを払ってくれたら一緒になってもいいよ」
この当時、60円というとサラリーマンの初任給にも匹敵する額。
今で言えば20万円前後になるだろうか。
松尾鉱山に戻った男は、鉱山仲間の貯金84円50銭を勝手に引き出して、約束の岩手公園で女に渡し、1回関係した。
しかし、その女の住所氏名は聞かなかったのだ。
「これからについて明日またここで相談しようよ」
「わかった」
しかし、翌日女は来なかった。
騙されたのである。
判決では懲役8か月、執行猶予4年。
裁判長からは「今後一生懸命働いて金を返して、まじめに世の中を渡れよ」と訓戒された。