発電所工事で賑わう川口村の強盗事件(S28.2.22)
昭和28年2月22日未明、岩手県岩手郡川口村下屋敷(現在の岩手県岩手町川口)で、4人組による強盗致傷事件が発生しました。この部落は川口村役場や警察駐在所から約4~5キロメートル離れた山間部の小集落で、これまで犯罪のない平和な地域でした。しかし、発電所建設工事が始まったことで外部から労働者が流入し、地域に変化が生じていました。
事件の被害に遭ったのは、59歳の女性が営む煙草屋兼物品販売店で、この店は発電所建設に従事する労働者を相手に営業していました。当夜、女性とその孫(20歳)、養女(21歳)、および内縁の夫(79歳)が就寝中に4人の男が押し入り、家人を木材で殴打して脅迫。現金約69万円と煙草を強奪しました。家人のうち女性は頭部に重傷を負い、孫と養女も打撲傷を負いました。
事件後、川口村から約30キロメートル離れた沼宮内地区警察署に通報がありましたが、隔絶した地形のため通報に時間がかかりました。警察は、発電所建設に関与していた元労働者が犯人と見立て、迅速に捜査を開始しました。昭和28年2月23日未明、花巻市の湯本温泉にある旅館「楽知館」に潜伏していた犯人2名を逮捕。その後、東京や盛岡市で残る2名も逮捕されました。
犯人たちはそれぞれ異なる地域の出身で、福島県伊達郡石戸村(現在の伊達市)、長野県西筑摩郡福島町(現在の木曽町)、群馬県佐波郡宮郷村(現在の伊勢崎市)から来ていました。彼らは岩手県宮古市などに在住し、事件前年まで川口村の発電所建設工事で労働者として働いていましたが、冬季に職を失い、盛岡市で金銭的に窮していました。犯行前日の夜、彼らは煙草屋を襲撃する計画を立て、昭和28年2月21日午後8時頃、発電所付近で情報を集めた後、深夜に実行に移しました。
事件は迅速に解決され、裁判では主犯の3人に懲役7~10年が言い渡されました。また、未成年だった共犯者には懲役5年以上7年以下の判決が下されました。この事件は、平和な地域社会に大きな衝撃を与えました。