宮古のトンネル内強盗事件(S36.3.28)
昭和36年3月28日午後3時頃、岩手県宮古市牛伏の16歳の少女が歯医者からの帰宅途中、宮古市西方約5キロの花原市部落にある山田線作見内トンネル付近で男性に襲われた。犯人はトンネル内で待ち伏せし、少女を線路下の暗渠に連れ込んで現金約1,400円を奪い、さらに暴行を加えた。その後、犯人は少女を暗渠近くを流れる閉伊川に沈めようとしたが、彼女は必死に抵抗。犯人は石を投げて逃走した。少女は負傷しながらも自力で帰宅し、家族が宮古署千徳駐在所に通報したことで事件が発覚した。
同日、宮古署の斉藤署長以下、刑事課長や捜査係、鑑識係が現場に急行した。現場は宮古市と下閉伊郡新里村の境界付近に位置し、人家がなく昼間でも人通りが少ない場所だった。鑑識により、犯行現場周辺でゴム長靴の足跡や血痕付きの石、二つ折りにされた白いガーゼが発見された。また、線路下の排水暗渠には土砂が踏み散らされ、板片が散乱しており、犯人がここで暴行に及んだと推定された。
捜査班は過去の類似事件をもとに容疑者を絞り込み、昭和33年に新里村で強姦事件を起こし、昭和36年3月に盛岡少年刑務所を出所した下閉伊郡新里村墓目の男性が浮上した。彼の自宅を捜索した結果、血痕のついたズボンやジャンパーが発見され、さらに犯行現場の足跡と一致するゴム長靴を履いていたことが確認された。
昭和36年8月2日、この男性は最終的に犯行を全面自供した。動機は金品の強奪であり、暴行はその後の衝動的な犯行だったと述べた。犯人は被害者を襲い、金品を奪ったうえで暴行を加え、さらに川に沈めようとするなどの残虐な行為に及んでいた。
盛岡地方裁判所は、この男性に対し懲役15年(求刑無期)の判決を言い渡した。この裁判は事件発生から5か月という異例のスピードで進行した。
被告は再犯に至った理由として「刑務所を出所しても社会が自分を受け入れてくれなかった」と語ったが、取調官はその心理的背景に複雑な要因があると感じていた。この事件は、犯罪者の更生支援の難しさや、地域社会における犯罪抑止の課題を浮き彫りにしたものであった。