盛岡・東宝第一映画劇場の殺人事件(昭和40年10月14日)

木曜日の夜

昭和40年10月14日、木曜日の夜のこと。

盛岡最大の歓楽街となった映画館通りの、まさに映画館である東宝第一劇場では「国際秘密警察 鍵の鍵」と「けものみち」を二本立てで上映していた。

このうち夜の部の会場は17時50分。

南側の便所で、22~23歳の若い男が血まみれになって倒れていた。
発見したのは20時25分頃。
すぐに岩手医大病院に運ばれたが、出血多量で予断を許さない状況であった。

ズボンには洗濯ネームがあり、人の名前らしきものと紫波町内の地名が書いてある。

殺人未遂事件として盛岡署により捜査が開始されることになった。

その日の映画は22時05分に終了したが、50~60人の客はみんな映画に夢中で、事件が起こったことなど誰も知らないようだった。

被害者の身元と行動

被害者の男性は、矢幅駅の近くに住む20歳の大工見習であった。

当日の午前中に大工仕事を行い、午後は昼食後に「盛岡に行く」といって自宅を出ていった。
矢幅駅の売店で働いていた女子の同級生から牛乳を買い求め、雨具を盛岡市内で働いている妹に届けに行く所だった、25日には北海道に当時に行くという話をしていた。

ちょうど、岩手県付近を温暖前線が通過し、雨が降っていた。

そして13時58分の普通列車に乗り、盛岡駅に到着したのは14時13分。
東北本線も電化したばかりで、普通列車もSLから電気機関車に変わっていた。

父親によれば、「性格は明るい方だと思うが、最近気が荒くなったように思えた。そのあたりが被害の原因だろうか」と言っていた。

映画館の従業員は20時20分頃見回りして何もなかったというし、犯行は10分足らずの所で行われたということになる。
犯行は、被害者が便所で手を洗っている時、後ろから刺したものらしい。

また、モギリ嬢によれば、19時半以降は入場者が無かったという。
また、20時半以降の退場者は記憶していないという。

被害者の男性は、17日の夜に死亡してしまった。
このため、容疑は「殺人未遂」から「殺人」に切り替わることとなる。

難航する捜査

捜査を開始はしたものの、おそらくは「流し」の犯行だろう、というところまでは推測できるとして、犯人はどのような経路で逃走したかである。

交友関係はと言えば、盛岡市内でバーテンをしていた頃に交友のあった暴力団や不良グループとの付き合いがあり、女性関係はと言えば「女に手が早かった」とも言われている。
そういった喧嘩や痴情の線も十分に考えられる事件であった。

また、あまりに偶発的な犯行から、精神異常者による犯行の線も捨てきれなかった。

事件は迷宮入りするかに見えた。

意外な所で捕まる

10月17日の朝のこと。

福島県の浜通りは常磐線浪江駅前の旅館で、宿代も払わず逃げようとした17歳の少年がいたので、福島県警浪江警察署に突き出されることになった。

しかし年齢や名前など、嘘ばかり言って係官をてこずらせている。

「俺は盛岡で人を殺して逃げてきたんだ」
「何?」

それもウソなのか・・・?
一応、それらしい殺人事件を岩手県警に照会する。

10月14日に、盛岡市内の映画館で刺殺未遂事件(この時点では)があったことは確かのようである。
でも、新聞を読んで作り話をしているのかもしれない。
相手は少年でもあり、慎重に調べを進めることにした。

自供を詳しく調べてみると、どうもそれは本当のようだった。

北海道の帯広出身であり、盛岡の地理は分からないようだったが、犯行後、血の付いた服を着替えたのは岩手公園で、ボストンバックを捨てた木橋というのは御厩橋ではないかと推測された。
そして、逃走の為に列車に乗った駅は仙北町駅ではないかと推測された。

犯行の状況

一体、どのような状況で犯行に及んだのか。

10月13日、仕事を探すために帯広の家を出て、14日の15時19分、急行「むつ」で盛岡駅に到着した。
16時過ぎに「けものみち」を上映している映画館に入り、見終わってから便所に行くと、どこかの男に「何だ、ガン付けで」と言われ、こうもり傘で殴られたのだという。
それでカッとなって登山用ナイフで刺したのだという。

それで怖くなって、盛岡駅の隣の駅(仙北町駅)から福島まで逃げてきたのだという。

少年の自供と現場の状況はだいたい符合し、真実のものであると認められた。

判決

少年は盛岡警察署の留置場に入れられたが、年が昭和41年に変わった1月に脱走事件を起こしている。
このことで実名が報じられた公開手配をされ、裁判所の心証を悪くすることにした。

翌年の昭和41年8月13日、盛岡地方裁判所は殺人、強盗など7つの罪で懲役15年を言い渡した。


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