選挙違反の捜査は医師やレントゲン写真まで(S5.3.1岩手日報)
1930年3月1日
2025年8月1日
昭和5年の岩手県議会議員選挙をめぐり、盛岡地方裁判所検事局は大規模かつ徹底的な選挙違反捜査を展開していた。
この日報じられたのは、その取り調べが医療の領域にまで及んだという事実である。容疑の一つに「病気を装っていたのではないか」という疑惑が浮上し、検察はその裏付けとして病院関係者を聴取したのみならず、なんとレントゲン写真の調査にまで踏み込んでいた。
記事では、「病気だったのか、故意に隠れていたのか」が捜査の焦点となり、担当医師の証言やレントゲンを含む医学的資料が証拠とされた様子が報じられている。被疑者の身辺からお隣の証言まで、証拠集めは徹底していた。
また、事件に関与したとして扇田警察署長が逮捕・拘引されたことも報じられており、選挙違反の捜査が現職警察幹部にまで及ぶ深刻な展開であったことがうかがえる。
今日の感覚からすれば、患者の病歴やレントゲン写真が捜査の中で当然のように取り扱われること自体、医療プライバシーの欠如を象徴する出来事である。当時はまだ「個人情報保護」という概念が広く共有されておらず、正義の名のもとに公的機関があらゆる領域に介入することが一般的であった。
この事件は、戦前日本の法制度と人権意識の乖離を映し出す一例として、今日でも示唆に富む資料である。