盛岡・内丸座で「広瀬中佐」「幻の賊」「アイアンホース」「勝てば官軍」を公開(S2.4.22岩手日報)
昭和2年4月22日の岩手日報より。
盛岡の映画館・内丸座では、この日から豪華な四本立て上映が行われた。戦争の英雄譚から西部劇、捕物、歴史劇まで揃ったそのラインナップは、まさに昭和初期の映画興行の活気を象徴するものであった。
『広瀬中佐』は松竹キネマ蒲田撮影所で製作され、大正15年(1926年)6月25日に公開された。日露戦争における軍神・広瀬武夫中佐の生涯を描いた愛国劇である。監督は蔦見丈夫、原作・脚色は吉田百助。主演は岩田祐吉で、ゾール・ゼダ、チャールズ・ベシレルスら外国人俳優も出演している。旅順港閉塞作戦に殉じた広瀬の姿は、当時の観客に強い印象を残した。
『幻の賊』は、正式には昭和2年12月1日に松竹蒲田から公開されたとされるが、盛岡ではそれに先駆ける形でこの時期に上映されている。主演は藤野秀夫。江戸を舞台とした大捕物で、日活から松竹に移籍した藤野の新境地ともいえる作品である。
『アイアンホース(The Iron Horse)』は1924年製作のアメリカ映画で、日本公開は大正15年2月5日。ジョン・フォード監督、ジョージ・オブライエン主演による西部劇で、アメリカ大陸横断鉄道建設をめぐる苦闘と開拓のドラマを壮大なスケールで描く。アクションと風景美が融合した、サイレント時代の代表作とされている。
『勝てば官軍』はマキノプロダクション(御室撮影所)製作、1926年10月29日に浅草千代田館で初公開された。監督は富沢進郎、脚本は芝蘇呂門、原作は河合広始、撮影は松浦茂。出演は関根達発、河上君栄、森肇、児島武彦ら。幕末維新の動乱を背景に、勝者の正義と敗者の悲哀を描いた作品で、「勝てば官軍」の言葉通り、時代が動く中での権力と正義の相克をテーマとしている。
サイレント映画の黄金期、ジャンルも製作会社も異なる4作品を一挙に楽しめるという贅沢な興行は、盛岡の観客にとって忘れがたい上映体験となったに違いない。