青森県警察部でニセ高文官僚(S7.11.1岩手日報)

昭和七年十一月一日の岩手日報に、青森から電話で届けられた驚くべきニュースが掲載されています。自分と同じ名前を持つ「エリート合格者」の経歴を丸ごと盗み、警察幹部の座を手に入れた男の、あまりに大胆ななりすまし事件です。

事件の主役は、青森県西津軽郡出精村(現在のつがる市)出身の三十四歳の男でした。男は、昭和四年の官報に、自分と同姓同名の人物が文官高等試験に合格しているのを見つけます。当時の高等試験といえば、合格すれば将来が約束される超難関の国家試験です。男はこの偶然を利用し、自分こそがその合格者であり、法学士であると偽って履歴書を提出しました。

この嘘が通用してしまい、男はあろうことか青森県警察部の警部補という幹部ポストに採用されます。当時の警察組織のチェックをくぐり抜けたその手口は、現代から見れば驚くほど大胆不敵なものでした。

しかし、偽りの栄光は長くは続きませんでした。配属からわずか一週間、男の運命は暗転します。配属先に、たまたま彼の正体を知る郷里の者がいたのです。「出精村のあいつが、そんな秀才であるはずがない」という身近な人物の疑いから調査が始まり、あえなく正体が露見してしまいました。

十月二十五日に免官となったこの男、記事の後半では「怪しからぬ奴」と断じられており、以前から詐欺や誘拐といった余罪の疑いもあったようです。情報の確認が困難だった時代、官報の文字情報だけを頼りに警察の中枢へ潜り込もうとした男の野望は、最も身近な「同郷の目」によって、わずか七日間で打ち砕かれたのでした。

 

 


showa
  • showa

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です