川井村の薪炭商夫婦殺害事件(S39.12.18)
昭和39年12月18日、岩手県下閉伊郡川井村中屋敷で、夫婦が猟銃で射殺される事件が発生した。同日午前11時30分頃、近隣住民が夫婦の遺体を発見し、宮古警察署に通報。現場は無施錠の出入口、障子の隙間、鮮明に残された足跡などから計画的な犯行をうかがわせるものであった。夫婦は寝室で倒れており、大量の血液が流れていた。警察は殺人事件と断定し、現場近隣に捜査本部を設置。遺体の解剖では、夫婦とも至近距離から猟銃で撃たれたことが判明した。
事件が起きた中屋敷は、川井村(現在の宮古市)に位置する山間部の集落で、標高1,000メートルの山麓に点在する48戸の家々から成り立っていた。冬季は積雪が多く、交通手段も限られており、部落北端を通る国鉄バスが1日4往復運行するのみで、バス停は集落中心部から約2キロ離れているなど、生活環境として非常に不便な地域だった。
被害者夫婦は地元で資産家として知られ、薪炭業や商店を営む一方、住民に貸付を行うなど信頼を集めていた。事件前日、夫が近隣で「木炭取引で15万円をだまし取られた」と憤慨していたことが判明。これを基に捜査が進み、木炭取引を装って金を詐取した男が容疑者として浮上した。
12月23日早朝、容疑者は山中の炭焼き小屋で逮捕された。当初、詐欺を認めたものの殺人については否認。取調べでは抵抗的な態度を見せたが、警察の粘り強い説得と寒さの中での人道的対応が容疑者の心を動かし、犯行を自供した。容疑者は返済を迫られたことに苦悩し、猟銃を持って夫婦を射殺。現金などを奪って自宅に隠したと述べた。供述に基づき、隠されていた証拠品が発見され、事件は解決に至った。
この事件は昭和40年、盛岡地方裁判所で審理され、容疑者には強盗殺人罪などで死刑判決が言い渡された。その後、控訴と上告を経て昭和45年に刑が確定し、昭和46年12月に刑が執行された。