盛岡・紀年館では日活「修羅城」「父」公開(S5.3.1岩手日報)
1930年3月1日
2025年8月2日
昭和5年3月1日の岩手日報より。
この日の盛岡「紀年館」の広告には、日活配給の2本の映画――『修羅城』と『父』の上映が告知されていた。
『修羅城 水星篇・火星篇』(1929年10月1日公開)は、池田富保が原作・脚本・監督を務めた、日活太秦撮影所によるオールスター時代劇。18巻・無声・モノクロ・上映時間144分の長篇超大作である。大河内傳次郎をはじめ、市川小文治、片岡千恵蔵、酒井米子、佐久間妙子ら豪華な俳優陣が出演し、徳川家康や真田幸村、淀君、千姫など実在の歴史人物を配したスケールの大きな戦国絵巻であった。「秋季超特作」と銘打たれ、当時の話題作であったことがうかがえる。
『父』(1930年5月15日公開)は、松竹蒲田撮影所による現代劇で、原作は文豪・菊池寛。監督は佐々木恒次郎、脚本は小田喬、撮影は猪飼助太郎。出演は八雲恵美子、高田稔、岩田祐吉ら。無声映画・モノクロ・スタンダードサイズ・10巻構成の作品で、父と子の愛情と葛藤を描いた人間ドラマである。広告には「現代閨父性聖父哀篇」とあり、家庭の情愛をテーマにした静かな感動作だったと考えられる。
上映を行っていた紀年館は、大正4年11月23日に開館した、盛岡で最初の常設映画館。肴町から八幡宮にかけての通りに位置し、地元の映画文化の草創期を支えた劇場である。時代劇の超特作と文芸原作の家庭劇という対照的な二本立ては、昭和初期の盛岡の観客に豊かな映画体験をもたらしていた。