盛岡・内丸座で「明眸禍」「空中サーカス」「闇・後日譚」公開!(S5.3.14岩手日報)
昭和5年3月14日の『岩手日報』に掲載された映画広告によると、盛岡の内丸座では三本立ての豪華上映が行われていた。文芸映画『明眸禍』、アメリカの航空青春映画『空中サーカス』、そして剣戟時代劇『闇・後日譚』という多彩なラインナップである。
『明眸禍(めいぼうか)』は菊池寛の同名小説を原作にした作品で、昭和4年11月29日に松竹蒲田で初公開された。主演は栗島すみ子と岡田時彦。女性の美しさと男たちの運命が交錯する愛憎劇で、菊池寛らしい重厚なテーマを扱っている。星ひかるや島耕二も出演し、文芸映画としての格調の高さを保ちながら、当時の観客の関心を強く惹きつけた。
『空中サーカス(The Air Circus)』は1928年製作のアメリカ映画で、監督はハワード・ホークス。主演はスー・キャロル、アーサー・レイク、デヴィッド・ローリンズ。航空学校を舞台に、飛行士を目指す若者たちの友情、成長、恋愛を描く青春ドラマである。当初はサイレント映画として完成したが、後に15分ほどのトーキー場面が追加され、「パート・トーキー」として公開された。スタントには著名な飛行士ディック・グレイスが参加しており、空中のスリルとロマンスが融合した先駆的な航空映画として評価されている。
『闇・後日譚』は阪東妻三郎主演の剣戟時代劇である。「感興絶頂」「死線突破」といった強いコピーが広告に踊り、決断と激情が交錯する物語が予感される。英断断行・料金破格との宣伝文句もあり、観客の興味を引く工夫が凝らされていた。阪妻の殺陣と情感が融合した、当時の人気を象徴するような作品である。
このように、昭和初期の盛岡では洋画・邦画のジャンルを超えて多彩な作品が同時に楽しめる環境が整っていた。内丸座のような劇場は、そうした文化の受け皿として市民に親しまれ、地域の映画文化の中心的な役割を担っていた。