一関映画案内(S42.11.6岩手報知)
昭和42年11月6日の『岩手報知』紙面には、一関市内の映画館2館――一関東映と有楽座の上映案内が掲載されていた。この頃、一関では映画館の数が二館に減少しており、時代の移り変わりを感じさせるが、番組編成を見ると、いずれもなお強い娯楽性とバラエティを維持していたことがうかがえる。
一関東映では、東映らしい男くさい三本立てが組まれていた。『柳ヶ瀬ブルース』(1967年9月公開)は、梅宮辰夫がバーテン役で放浪と成り上がりを繰り返す風俗ドラマで、東京と岐阜・柳ヶ瀬を舞台にした愛憎劇。『日本暗黒街』(1966年公開)は鶴田浩二主演の裏社会アクションで、元特務機関員の主人公が麻薬組織の抗争に巻き込まれていく戦後アクション映画。そして『きり込み』と題された三本目については、同名の日活映画が1970年に公開されているが、この昭和42年時点では該当作品の記録が残っておらず、東映配給のB級作品か、広告上のタイトル省略・誤植などの可能性もある。
一方の有楽座では、明るく親しみやすい青春・恋愛映画が並ぶ三本立てだった。『南太平洋の若大将』(1967年7月公開)は、加山雄三演じる田沼雄一が、ハワイやタヒチを舞台に恋と柔道に青春を燃やす「若大将シリーズ」の第10作。『若社長レインボー作戦』(1967年5月公開)は、竹脇無我がパリ帰りの化粧品会社の若社長となり、新製品「七色クリーム」の開発と社内抗争に立ち向かう松竹の企業青春映画。そして『花と果実』(1967年8月公開)は、石坂洋次郎原作による和泉雅子主演の日活青春ドラマ。上京した女子大生が母の死をきっかけに出生の秘密を知り、恋人の裏切りを経て“女になる”までを描いた感傷的な青春譚である。
東映系の東映東映した路線と、東宝・松竹・日活の明朗青春路線という、まるで対照的な二館の編成からは、昭和40年代の地方都市における映画文化の豊かさと、まだ確かに生きていた観客との呼応の姿勢が感じ取れる。たとえ映画館の数が減っても、娯楽の核としての映画は、依然として強い存在感を放っていた。昭和42年の一関の街にも、スクリーンの光が確かにあった。