盛岡日活のこけら落としに「怒涛の男」「人生とんぼ返り」(S30.12.28岩手日報)

昭和30年12月28日の岩手日報に掲載された盛岡日活の開館告知は、当時の映画黄金時代の熱気と興奮を今に伝える貴重な資料です。翌29日の正午に産声を上げたこの映画館が、こけら落としの演目に選んだのは、力道山主演の怒濤の男と森繁久彌主演の人生とんぼ返りという、当時の娯楽の頂点を極めた豪華な2本立てでした。

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中央に大きく配された怒濤の男は、プロレス界の至宝である力道山がリングで見せる圧倒的な迫力をスクリーンに持ち込んだ作品です。元横綱の東富士や、後に歌謡界の女王となる若き日の美空ひばりも顔を揃えており、その顔ぶれからは当時の日活がいかにこの新劇場の開館に心血を注いでいたかがうかがい知れます。

併映された人生とんぼ返りは、マキノ雅弘監督が新国劇の伝説的な殺陣師である市川段平の半生を描いた名作です。主演の森繁久彌は、芸に命を懸け、不器用ながらも真実の殺陣を追い求めた男の悲哀を熱演しました。この作品は、単なるアクション映画にとどまらない深い感動を呼ぶ人間ドラマとして、当時の観客の心に深く刻まれたはずです。

この祝賀ムードに華を添えたのが、日活から派遣された俳優たちによる舞台挨拶でした。来演した三島耕は、後に東宝の特撮映画やテレビドラマで欠かせない名脇役として長く活躍することになります。また、島村謙二は後に島村謙次と名を改め、日活アクション映画の全盛期を支えるバイプレイヤーとして数多くの作品に足跡を残しました。一方で、木室郁子や島秋子のように、映画界が急激に変化していく中で数年の活動期間を経て銀幕を去っていった若手女優たちの存在も忘れてはなりません。特に島秋子は、1958年の美しき不良少女を最後にその活動を終えていますが、昭和30年のあの日、盛岡の舞台で放った彼女たちの瑞々しい輝きは、新しい劇場の誕生を祝う人々の目に鮮烈に映っていたことでしょう。

さらに特筆すべきは、29日の収益金が歳末たすけあい運動に寄付されるという慈善興行としての側面です。新しい娯楽の殿堂が誕生する喜びを地域社会への貢献に繋げるという、当時の興行界が持っていた公共性と温かな人情が紙面から読み取れます。盛岡日活のオープンは、単なる映画館の開館という出来事を超えて、戦後復興の中で豊かな文化を渇望していた盛岡の人々にとって、希望に満ちた新年の幕開けを象徴する一大行事だったのです。


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