宮古の銀行ギャング事件(S29.4.12)
昭和29年4月12日午後4時20分ごろ、岩手県宮古市にある岩手殖産銀行宮古支店で銀行員が襲われる事件が発生した。同支店の通用門付近で、当時25歳の銀行員が頭部に重傷を負って倒れているのを同僚の18歳の銀行員が発見した。被害者は意識不明の状態で宮古地方病院に搬送され、頭蓋骨骨折や脳挫傷と診断された。現場には銀行用のボストンバッグが切り裂かれた状態で残されており、収納金34万4,170円のうち10万円が盗まれていることが判明した。
捜査は宮古市警察署が担当し、現場検証が行われたが、当日は雨天で足跡などの物証は見つからず、捜査は難航した。被害者も記憶を喪失しており、事件の詳細を明らかにすることは困難だった。さらに、事件直前の3月15日に銀行独身寮でカメラの盗難事件が発生していたが、これは事件とは無関係であることが後に判明した。
4月26日、当時26歳の銀行用務員が容疑者として逮捕された。彼は事件当日の行動に不審な点があり、アリバイ工作を試みていたことも明らかになったが、犯行を否認し続けたため、一時釈放された。その後、5月29日、当時16歳の呉服店員である女性が「事件当日、銀行の通用門付近で容疑者が現場にいるのを目撃した」と証言。この目撃証言が事件解明の大きな手がかりとなった。
この女性は、事件当日、品代の集金で銀行を訪れており、その際に容疑者が現場で行動している様子を目撃したと詳細に語った。彼女の証言は、容疑者が現場で犯行に及んだ決定的な状況証拠として重視された。しかし、この証言をしたことで彼女は注目を浴び、8月13日夜には数名の男に襲われ、全治1か月の重傷を負う暴行事件に巻き込まれた。この暴行事件も銀行強盗事件と関連が疑われたが、捜査の結果、関与が立証されることはなかった。
裁判では、目撃証言や状況証拠をもとに容疑者が単独で犯行に及んだと認定された。昭和30年2月1日の第六回公判では検察が懲役10年を求刑。同年3月10日、盛岡地方裁判所は容疑者に懲役8年の判決を言い渡した。被告は判決を不服として控訴したが、昭和31年10月22日に仙台高等裁判所で控訴棄却の判決が下され、さらに昭和32年4月1日に最高裁判所で上告も棄却され刑が確定した。
この事件は、被害金10万円が最後まで発見されなかったこと、目撃証言の信憑性や目撃者への暴行事件など多くの波紋を呼び、社会を震撼させた「銀行ギャング事件」として語り継がれることとなった。